読売新聞
11 April 2006
東京フィルハーモニー交響楽団の第21回東京オペラシティ定期は、ダニエル・ハーディングを招いたマーラーの「交響曲第2番<復活>」。イギリス出身のハーディングは、30歳の若さで世界の超一流楽団との共演を重ねる注目の指揮者。日本のオーケストラとは初顔合わせとあって、会場は満員だった。
強烈なアクセントと明快なコントラストは、古楽的なアプローチを経た世代に共通するものだが、性格の異なったフレーズを鋭い間合いで交錯させる造形は、本能的な閃きを感じさせる。おそらく彼の頭の中では、薄く紅をひくような弱音が、瞬時に重いフォルテヘと変化するさまが思い描かれているのだろう。
しかしハーディングの意図が明確なだけに、結果としてはオーケストラ側の力量があぶりだされることになった。ハーディングの意識は常に次のテンポ、次の拍子に一瞬早く移るが、東フィル側はこれに反応するのに精いっぱいで、前のテンポや拍子の結尾がしばしば不安定になってしまう。
とりわけ中間の第2、3楽章で休符の長さやリタルダンドが乱れるのも、慣習的な「タメ」とは異なる指揮者の表現と奏者の意識に齟齬(そご)が生じていたためだろう。また、長大な交響曲だけに無傷の演奏はあり得ないものの、随所で頻発するミスやアンサンブルの乱れは許容範囲をやや超えていた。
もっとも、これらマイナスを全て東フィルに帰すわけにはいかない。自身の美学に沿った細かいアーティキュレーション(分節法)やテンポ変化を要求するのは当然ながらも、一方でそのオーケストラの美点を生かす度量も指揮者には必要だ。
今回の共演は指揮とオーケストラがぎりぎりでぶつかり合った熱演ではあった。しかしマーラー作品の醍醐味である、俗な世界からふと立ち現れる聖、そして諧謔(かいぎゃく)味は、もっと双方に余裕がなければ生まれないのではないか。
沼野 雄司
The Observer
16 January 2005
両方の作品において、Hardingのディテールへの注意は細心である。
Anthony Holden
Financial Times
11 January 2005
シューマンのヴァイオリン協奏曲の伴奏をあたかもオーケストラが減量したかのように、ハーディングはスリムに均整を保った。マーラー交響曲4番の公演は新鮮かつ陽気であった。この交響曲を演奏する容易な方法は、ウィーンの叙情性のホイップクリームのような感傷性にふけることである。ハーディングは最初の小節から最後まで注意をおこたらず、早いペースの音楽で、彼は大きな絵を凝視すかのように、オーケストラの豊満さより明るく明瞭な基調を好んだ。要するに音楽指揮者として可能な限りの権威を示すような公演であった。
Richard Fairman
The Telegraph
11 January 2005
ゆっくりしたテンポの傑出した弦楽器の和音は、完璧なまでに声域に合わせられ、非常に多くのテンポが非の打ち所なく指揮される。
Ivan Hewett
The Spectator
15 January 2005
マーラー自身のオーケストラであるウィーンフィルは、若いイギリス人指揮者と素晴らしい音楽的パートナーシップを熱狂的な雰囲気の中で可能にした。聴衆からの拍手でステージに呼び戻された彼は、コンサートマスターのライナー・キュッヒル氏からも賞賛を受けた。気付かれないに意図された身振りであったが、実際にはそうならなかった。
Michael Henderson
Wiener Zeitung
21 December 2004
最後の瞬間の有名なフルートのソロは、座席の狭い列でなければ横たわって泣きたいほど素晴らしく、心を揺さぶる美しさであった。ハーディングは演奏者の信頼を獲得したようだ。若さにもかかわらず、指揮者がオーケストラを以前の栄光へ導けるという見解を明らかにした。
彼の演奏は、音楽の細部の綿密な仕上げを的確にセンス良く結合して、音楽の大渦巻きのような効果を演出した。彼はテンポの柔軟な変化と説得力によって、オーケストラだけでなく聴衆をも魅了した。
Rainer Elstner
The Times
13 December 2004
標準的な洗練さと特別な明晰さでLSOは演奏した。ハーディングの計算は、アダージョでの真の緊張と切望を生み出し、フィナーレでの曲芸のような巧みな感動も生み出した。
Geoff Brown
The Guardian
10 December 2004
彼は作品全体を評価した。3つの中心的なスケルツォは鋭く特徴づけられ、別世界のオープニングを最後まで注意深くステージ上で管理した。
Andrew Clements
Toronto Star
28 November 2004
ハーディングは説得力があり、首尾一貫した明確に理解できる不滅の構造に対して、驚くべき音楽の多様性を創り出した。作品は最初から絡み合うように密生し、精力的で情熱的な(しかし感傷的でない)演奏者の中でも弦楽器奏者はゾクゾクするような内面的な熱情を生み出し、聴いたことのないような稀にみる音のよさであった。交響曲を終結させ、極度の対位法と苦悩に満ちたクライマックスの瞬間を含んだ広大でゆっくりとした楽章を、指揮者は油断のない演奏で贈ってくれた。演奏は均質さを残し、表情に富んだ献身を示すように巧みに操縦された。彼のとても刺激的な解釈は、シーズンのハイライトのひとつでなければならない。
Geoff Chapman
Globe & Mail
27 November 2004
ハーディングのTSOとの公演は、不正確と非難されたスコアに対する忠実なモデルであった(他の皮肉:マーラーは妻が浮気していることに気づいた時、10番の作曲をしていた)。弦楽器の音色の深さ、管楽器の明快さ、ディテールのバランスの持続的な集中、これらすべてが聴いていて楽しい。
Robert Everett-Green
Los Angeles Times
20 November 2004
10番に対するハーディングのアプローチを喜んで受け入れる。彼は燃えさかるようなテクニックを獲得し、10番の棘だらけのパッセージを通して、無邪気な大胆さとうわべの気楽さをもって自らの道を見い出した。
Los Angeles Daily News
19 November 2004
ハーディングはフィナーレの後半において、最善で感動的に、コーダをやさしく心から指揮した。この指揮者の輝かしい将来に疑う余地がない。
The Guardian
11 June 2004
一番楽しんでいるのはハーディングではないだろうか。ロビーの彼のブラームスを宣伝するポスターがある所で、もっとも有名なLSOのサウンドトラック「スターウォーズ」を指揮した。この映画は彼が乳母車にいた時のもので、常に愛してやまないもののようだ。
Erica Jeal
The Times
11 June 2004
若いハーディングはジョン・ウィリアムズのスターウォーズのテーマに邁進した。そして、LSOの不滅の首席トランペット奏者モーリス・マーフィーへ正確に出だしの指示をした。ぞくぞくする明快なラッパの響きと音は多数の映画音楽を発射した。
Richard Morrison
The Sunday Telegraph
4 April 2004
ハーディングによる5つの楽章の指揮は驚くべきもので、第1楽章の苦悩と恐怖から2楽章の最初のスケルツォの喜びと激しい憎悪、'Purgatorio'の謎と超絶した恍惚と荘厳なフィナーレの変容へという作品の対照的で矛盾した旋法の核心へ到達したのである。
Michael Kennedy
The Guardian
2 April 2004
旋法とテンポの急激さを好むハーディングはこの作品の理想的な指揮者である。緊張を破壊点まで持続して、音楽が平穏さを達成するまで時間を保持するかのようだ。
Tim Ashley
The Times
2 April 2004
ハーディングはマーラーの(最後の)遺言の本質である、苦悩と強いられた断念という恐ろしい感覚の多くを捉え、その演奏は審判を受けたように著しく確かなものとなる。
Richard Morrison
Financial Times
1 April 2004
ハーディングと演奏家は核心へと至り、幻想的なフィナーレでは超越した終末の問題に到達した。
Richard Fairman
The Times
1 November 2003
音楽の質がどうであろうと、ハーディングとLSOは自己を超越した。公演は輝かしく洗練されていた。
Geoff BrownAuther
Philadelphia Inquirer
18 October 2003
ハーディングを見るのはたいへん楽しい。彼の仕草は途方もなく筋骨たくましい。それはオーケストラからフレージングの長い線を生み出す。彼の左手は一人だけのバレエ団だ。ハーディングが「ドン・ジュアン」で実現したのは、シュトラウスの(実に)動的に結合した作品の解釈である。作品を締めくくるピチカートの間は、普通ではないぎっしり詰まった存在感があった。
Peter Dobrin
Star Tribune
10 October 2003
ハーディングはエルガーの「謎の」変奏曲の価値を知り、深く感じさせるように導いた。変奏曲はシャープにエッチングされている。ドン・ジュアンの演奏では、弦楽器は響き渡りホルンは燃え立って、美感に訴え胸一杯になった。
Larry Fuchsberg
The Times
15 August 2003
ハーディングとDKBのラモーの歌劇「イポリトとアリシ」は私たちを快活にしてくれた。初期バロックの威厳に満ちて速くストレートに伴奏されるところを、風の中を手綱が素早く動くギャロップへと変えられた。実際にハーディングと仲間たちはたいへんエネルギーと元気に満ちていて、コンサートの終わりのベートーヴェン交響曲7番はまっすぐ空へと上昇した。第1,3,4楽章は元気そのものだった。
Matthew Connolly
The Guardian
14 August 2003
たとえ長く試みたキャリアを持っていたとしても、指揮者がベートーヴェンの交響曲のようなよく知られた作品に個性的な刻印を押すのはたやすいことではない。しかし、9年前にプロデビューし国際的なシーンではまだまだ若いイギリス人指揮者ハーディングはDKBとのラストコンサートでベートーヴェンの交響曲7番の公演で幕を閉じ我々を興奮に巻き込んだ。バランスへの著しく詳細な注意によって部分的に操縦され、かすかなささやきから強くなる2楽章の最初の数分では特に実を結んだ。室内管弦楽団が本当にソフトに演奏することを納得させ、ハーディングは2倍の大きさの周波数でめったに聞くことのない顕著で感動的なクレッシェンドを創造することができた。広々したフレーズから興奮を作り出し、あたかもゆっくりした作品であるかのように最終章を指揮した。続いてのアンコール(ウェーベルンの弦楽器のための5つの小品からの3番)では、ヴィオラとチェロの広い弱音の激しい音楽の滴がほとんど破壊的な選択であったが、輝かしく演奏された。
Erica Jeal
The Telegraph
13 August 2003
昨晩は素晴らしいコンサートだった。ハーディングのもとでのドイツカンマーフィルによる強調されたダイナミズムと制御のラモーとベートーヴェンの作品。性格描写はヴァイタリティに富み、ハーディングは音楽の構造の内側の線を見分けつつ彩色することに気をつけている。同時に最終章では過酷なまでの指揮を続け、アンコールを制止して狂乱に鞭打ったが、解放こそが唯一の可能な道のようであった。
Geoffrey Norris
The Independent
28 April 2003
ハーディングはラモーの歌劇「イポリトとアリシ」の序曲と舞踊曲でもっともスタイリッシュな演奏のひとつを生み出した。私がこれまで聴いた歴史に通ずる演奏の実践は、非常に輝かしくも混乱した結果となるような演奏であった。ハーディングはサイモン・ラトルの後継者と長い間当然のように吹聴されてきたが、オリジナル楽器のテンポとフレージングの適用においてロジャー・ノリントンの手本に従うより輝かしく、技術的に信頼の出来る後継者のように思われる。ラトルの最近のウィーンフィルとのレコーディングが、調子とサウンドにおいて時代遅れのように思わせるハーディングのベートーヴェン交響曲7番であった。第1楽章の自信に満ちたとても表現豊かなテンポの調整を持ち、ファゴットとオーボエは最高の調子でアレグレットはクリーンに精錬され、フィナーレではずるそうな証明者と同じ速さで演奏した。これは高度に特性があり欲望をそそる有望な演奏である。
Anna Picard
The Independent
28 April 2003
制限された指示により多くのコントラストがあるハイドンの演奏は、ハーディングの指揮棒のもとでもっと多く聴く価値がある。第7楽章のゆっくりとした最後において、ハーディングと4人のソリストとエイジ・オブ・エンライトメント管のかすかなホルンが成し遂げたよく紡がれたフェイド・アウトはおそらく最も忘れがたい。
Bayan Northcott
Financial Times
23 April 2003
ハイドン「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の模範的な演奏。その強烈さを支持することは難しいが、指揮者ダニエル・ハーディングの集中からは誰しもそう思わなかった。
Richard Fairman
The Times
18 April 2003
指揮者ダニエル・ハーディングのおかげで「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(管弦楽版)はインスピレーションに満ちた高揚を得た。この音楽の気高い強烈さを想起させた。演奏者が時に行うような音の不健全化のかわりにハーディングは神秘化した。
John Allison
The Daily Telegraph
17 April 2003
指揮者とプレーヤーの間には明確な一致があり、共に(ハイドンの交響曲49番の)疾風怒濤の怒りを描写した。フレージングとハイドンの流動的な楽器の基調の微妙な扱いに関しては詳細に語ることが多くある。ハーディングは各楽章でコントラストをつけ、感情的な葛藤のドラマにまかせながら「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(管弦楽版)をうまく整調して、速い音楽がカタルシスの真の感情に最後の爆発を生み出した。
Matthew Rye
The Times
1 April 2003
ハーディングの帽子は羽根のついたクジャクの尾のように扇形に広がっているに違いない。このコンサートで彼は他のものを得た。まだ20代だが、力強く厳しい指揮姿には厳粛ささえ存在する。ハーディングは恐ろしい力のフィナーレに身を投げ出した。拍手が鳴り響き、太鼓の音のようにオーケストラは足を踏み鳴らした。
Matthew Connolly
The Guardian
29 March 2003
指揮台でのハーディングのエネルギーには容赦がない。ハーディングの信念の強さは疑いようがない。人を動かさずにはおけないモーツァルト・ピアノ協奏曲第18番の演奏はオーケストラのサウンドを高揚させ、敏感で巧妙な伴奏者であることを証明する。
Tom Service
The Daily Telegraph
29 March 2003
著しい構造の明快さと、ものすごい量の楽器によるディテールがある。
Geoffrey Norris
( Of Anderson's 'Stations of the Sun' ) :
The Classical Source Online
18 November 2002
ハーディングには自信と首尾一貫した実現性がある。印象的に競って出される曲の持続的なコーダを確認するのに、彼は十分なほど差し控えていた。
Richard Whitehouse
The Times
18 November 2002
ハーディングは厳格さと活力をもって指揮している。
Matthew Connolly
The Times
14 February 2002
真の勝利は演奏家の責任と音色が生み出した交響曲「スコットランド」であった。年齢的な垢はハーディングの洞察によって掃き清められた。オーケストラと指揮者が融合し、再発見の航海に乗り出すという大きな恩恵をも耳にした。これは借り物のマエストロのコンサートではない。
Geoff Brown
The Guardian
14 February 2002
陳腐なヘブリディース序曲がエクサイティングに新しく聞こえるほど鋭敏な想像力を喚起するものであった。ハーディングの指揮の輝きとエネルギーは魅惑的な公演を作り出した。
Tom Service
The Independent
14 February 2002
メンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番は、本来の形式よりも明らかにスケールが大きい。共演のデミデンコは、ハーディングやオーケストラと共に正確さと表情豊かなラインに重みをおき、音楽的飛翔をすばやく行いながら火花を散らし突進を続けた。
Robert Maycock